3/1に政府は日銀の審議委員の人事案を衆議院と参議院に提出しました。
…と聞いても『?』となる方は多いのではないでしょうか。
そもそも、世界の中央銀行ないし日本銀行(日銀)の動向について皆さんはどれだけ興味があるでしょうか?経済を勉強したり、投資をしていれば、気にかけたことがあるかもしれません。
マスオは、経済に関しては無知のまま大人になり、就職しました。私と同じように大学院まで通ってある分野の専門性を高める勉強をしてきた人でも、経済に関心が無い人も一定数いると思います。
経済関連のニュースはYahoo!や新聞で何かと目にすることはありますよね。でも、その情報の良し悪しすら分からず、気付かないうちに記事のトーンに振り回され漠然とした不安になっている、なんてことはないでしょうか。
これは政治ニュースも近いところがありますね。中立的なものの見方が難しいケースです。
さて、例えば、日銀関連のニュースがあったとして、
「金融緩和」の文字の前後に「異常な」とか「脱却・修正」が付くとどうでしょう?
金融緩和という用語自体に、「?」となる人もいるかと思いますが、恐らく多くの方はその言葉に煽られるのではないでしょうか。
「あー日本はこの数十年間、給料上がってないって言われてるし、なんか賢そうな人が変えてくれるやろ(そのはず)」
「なんか凄そうな組織やし、一流の人がきっちりしてくれてはるはず(知らんけど)」
となっているかもしれません。
かくいう私も、海外に出て経済新聞(Financial Times)を読むまでは中央銀行の何たるやとかは全く知りませんでした。
高校では公民をとっていませんでしたし、経済の成り立ちに関しては無知のまま、受験という濁流に乗っていたわけですね。
この記事では、中央銀行(日銀)の役割や人事が及ぼす(可能性のある)今後の影響について、マスオの思うところを書いていきたいと思います。
マスオ的結論
現在の経済状況でこのメンバーとなれば、タカ派が多くなってこの先の経済が大丈夫か心配、です。
株式投資をしていなくとも、経済の仕組みをそれなりに分かれば当然の心配になるのではと思っています。実際に、マスオは投資を始める前から経済に関心を持ち、日銀の政策って欧米の中央銀行に比べてしょぼいなーと思ってきました。
結論ではいきなり「タカ派」と書いていますが、自分の理解をまとめるついでに順に整理しながら説明していきます。
基本的には、HPに書いてあることをまとめていきます。
そもそも、日銀(日本銀行)とは?
・日本国の唯一の中央銀行
・資本金の政府が55%出資、残りは民間など
→政府の出資比率は、法律(日銀法)で55%を下回ってはいけないと決まっている(外国に多く出資されたら国を乗っ取られるから)
つまり、政府が半分以上お金を出している(もちろん、口も出す。政府の子会社みたいなものです)
日銀の目的
日本銀行の目的は、「物価の安定」を図ることと、「金融システムの安定」に貢献することです。
日銀HP
お金を発行したりして、物価を安定させ、経済を発展させることが大事と書いてあります。
2つの理念「独立性」と「透明性」
・独立性:金融政策の独立性と業務運営の自主性
→手段の独立性(結果は出さないとあかんけど、どうやってやるかは任せてもらえる)
・透明性:金融政策決定会合の議事録公開と国会報告等
→(10年後ですが)何が議論されたか(議事・発言録)オープンにして、たまに国会にレポート出します(*2022年3月時点で、2011年の議事録が確認できます)
金融政策とは
物価がどのくらい上がるのかに影響を与える政策です。当然、景気動向に大きく影響を与えます。
中央銀行(日銀)は、安定した経済のために、「金融緩和」や「金融引締め」の策を講じることができます。
景気対策という点では、もちろん、政府の財政政策というのも重要です。ここでは中央銀行の役割である金融政策に絞って書きます。
後述しますが、金融政策は、特に雇用(失業率)に大きく関係します。雇用とはつまり、若い人にとっては新卒採用、アルバイトの求人数などを指します。
また、金利の影響でいえば、勤め人には給料の上がり具合、住宅ローンなどに影響が出ます。
公務員給与も一般的には民間の給与動向に追随しますので、まさに社会全体に影響があります。
副次効果として、株価が上がることが観察されています。
金融緩和・金融引き締めとは
景気の良し悪しを加熱・冷えると言ったり、物価を人の体温に例えることが多いですね。
- 金融「緩和」とは、デフレ(景気が冷え込んでいる)時、日銀がお金を市場に供給することで、景気を活発にさせようとする。
(体温が下がって体調が悪い時、温かいお風呂を提供することで体温の低下を防ぐイメージ)
- 金融「引締め」とは、上記の逆で、インフレ(景気が加熱しているもしくは加熱しそうな)時、日銀がお金を市場から引き上げることで、景気を落ちかせようとする。
(体温が上がって体調が悪い(悪くなりそうな)時、冷たいお風呂を提供することで体温の上昇を防ぐイメージ)
ここで、体温の上がり具合は物価の上昇率を意味し、「ほどよい体温を保つこと」が「中期にわたる物価上昇率2%(年間)」とされ、経済規模が大きな国では標準的な数値とされています。
G7を例に取ると、日本(日銀)・アメリカ(FRB)・イギリス(BOE)・フランス、イタリア、ドイツ(ECB)・カナダ(BOC)といった各国中央銀行のHPには、安定した経済の発展のために、2-3%の物価上昇率をターゲットにしていると書いてあります。ちなみに韓国も書いていました。)
雇用・失業率
景気の良し悪しは、失業の度合いに直結します。当たり前ですが、
- 失業数が少ないほど、雇用が多いほど景気が良い
- 失業数が多いほど、雇用が少ないほど景気が悪い
ですね。
中央銀行が行う金融政策の目的として、物価の安定の他に、アメリカの中央銀行であるFRBは、「雇用(employment)の最大化」を、イギリスのBOEも雇用に言及しています。
The Federal Reserve sets U.S. monetary policy to promote maximum employment and stable prices in the U.S. economy.
FRB HP 3. Conducting Monetary Policy
We also support the Government’s other economic aims for growth and employment. Sometimes, in the short term, we need to balance our target of low inflation with supporting economic growth and jobs.
BOE HP What we use monetary policy for
このように、英米は金融政策の目的を明記し、雇用を重要視していることが分かります。
最近では、ようやく高市早苗さんが「金融政策は雇用」と言い始めましたが、それは欧米で掲げられている『ごくごく普通なこと』、なんですね。これまでの政治家があまりに経済音痴だったのです。
多分、理解度が高かったのは安倍政権の時がピークではないでしょうか。
「金持ち優遇政策」「金融緩和を支持する人は、株などの金融資産を持っていて、値上がりが喜ばしいからだ」
というのは間違った批判です。社会全体の雇用に関わる非常に重要な政策の単なる副次効果です。
同じロジックは世界で通用しません。
マスオ個人としては、日銀も雇用という文言を金融政策の目的に追加したらいいのにと思うほどです。
政権のセンスが問われる日銀人事
ということで、この金融政策の舵取りをする人は重要であることは明らかです。それを決めるのが、政策委員会であり、構成メンバーは日銀総裁・副総裁・審議委員です。
同委員会の総裁(トップ)は政府(内閣)が指名することとなっています。その他は、金融の専門家から選ばれますが、これも政府が人事案をまとめます。ただし、総裁指名も審議員人事案も、衆議院と参議院の両方で承認される必要があります。
つまり、政府の人選びのセンスが問われるということです。
その選ばれしメンバーが各人どのようなスタンスを持っているのか。一般的に、スタンスを表す言葉として、「ハト派とタカ派(英語ではdoves and hawks)」を使います。
その時の経済の状態によりますが、これも一般的にハト派は金融緩和に積極的、タカ派は消極的な姿勢(発言)をする傾向にあります。
最新の人事案を図式化
最近の人事案を反映したものを下に示します。
最新の人事案では、金融緩和に積極的なメンバーが、消極的なメンバーに替わると予想されています。
これは臭い。どうも臭い。岸田内閣の”センスの悪さ”が光っています。
今日本はデフレ状態にありますから、世界標準で言えば、金融緩和はどんどんすべきというのがセオリーですが…
サッカーに例えると、試合で負けている時に、フォワードを減らしてディフェンダーを投入する感じです。「あのー監督。点取って勝つ気がありますか?」
業界別分布
各メンバーの出身業界で見ると分かりやすい構図が見えてきます。
誰がどう見ても結構露骨ですね。
タカ派、つまり金融緩和に消極的なメンバーは、金融業界に有利な、「金利を上げる方向」を主張する可能性が高いです。外形的にですが、明らかに業界贔屓が過ぎます。これは簡単な論理で、金利が上がりやすい政策を支持すれば、預金金利と貸出金利で儲ける構図の銀行業にとって短期利益をもたらす可能性を高めるからです。
しかし、日銀というのは、経済や金融の専門家であるべきで、考えるのは物価の安定と雇用確保のはずですよね。
この点において、新しい人事案は「日銀を金融緩和を抑える方向」にするのではないか、そんな危惧をしております。
ハト派には学者系が多いですが、欧米でも学者は一定数いますし、その時の経済状況で何が必要かを理解していればそもそも業界なんて関係ないのです。
しかし、実際にはタカ派の発言で今日本に必要な金融緩和政策の足が引っ張られる(可能性が高い)。
先のお風呂と体温の話で言えば、まだ身体が温まってないのに、浴槽の温度を下げたり、浴槽の水を抜いたりする人がいるということです。光熱費や水道代がもったいないとか言うのですね。風邪を引いてしまっては光熱費や水道代を稼ぐ仕事ができない、のですが。
いずれにせよ、世界に通用するプロであって欲しい、そのプロを選ぶセンスある政権を支持したい、マスオは雇用と経済のために、そう願うばかりです。
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